よい車を作っていたらトヨタは潰れた


良いものを作り続けているのに、反応だけが静かに薄くなる。

品質は落としていない。むしろ上げている。なのに、去年ほど喜ばれない。去年と同じ内容の提案書を、同じ価格で、同じお客様に出したときの、あの手応えのなさです。この現象を「努力が足りない」と読むと、打ち手を外します。動いているのは、こちらの品質ではないからです。

顧客満足は、品質の点数ではなく差分で決まります。満足=知覚−期待。Oliver(1980年)の期待不一致モデルが示した構造です。やっかいなのは、期待が放っておいても上がること。競合が上げ、他業種で受けた体験が上げ、過去の自分の仕事も上げていきます。翌日配達が当たり前になった世界では、三日で届く仕事が遅く感じられる。相手の物差しだけが伸びていくわけです。

同じ水準を保つことは、静止ではありません。緩やかな後退です。

NHKスペシャル「インサイド・トヨタ」(2026年7月19日放送)を見て腑に落ちました。豊田章男会長が2009年4月1日の新年度方針演説で掲げた「もっといいクルマをつくろうよ」は、品質の標語ではなく、更新をやめないという速度の宣言だったのだろうと。クラウンが2022年7月15日に四つのボディタイプで発表されたことも、退屈と言われた記憶の上書きとして見ると筋が通ります。ただ番組からは、その速度を支える現場の負荷も相当に見えました。更新は、無料ではないということです。

良いものをつくる、では足りない。もっと。良さの更新が、期待の上昇より速いかどうか。測るべき座標は、たぶんそちらです。

#顧客満足 #期待値マネジメント #中小企業マーケティング